キコリダケのなぞ

キコリダケのなぞ 

toadstoolについて

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              テングタケの一種(毒?) (撮影:ピエールとね)


秋なのでキノコのおはなしでもしましょう。
ぼくはかなりキノコがすきで、散歩するときはいつもキノコをさがしています。キノコの図鑑をながめるのもすきなんです。


toadstoolということばをきいたことがありますか?文字どおりには「ガマガエル(toad)のこしかけ(stool)」ですが、キノコをさすことばです。そういえば日本語にはサルノコシカケというキノコのなまえがありますね。

 

ある英和辞典でふとtoadstool をひいてみたら、つぎのようにのっていたのです。

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キコリダケ? なにそれ。きいたことないな・・・


これはあやしいと思いました。
だいたい、キノコに「~ダケ」という正式和名をもつものはひとつもないのですから、そこからしてうさんくさい。

でもそれにしてはbasidiomycotaなんていうアカデミックなことばもつかってるし・・・


Wikiの「キノコ」の項を見てみましょう。

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とちゃんと説明されています。(これ書いたのぼくなんですけどね(笑))


というわけで、本やサイトの文章でキノコのなまえを「~ダケ」と書いてあれば、それだけですくなくともちゃんとしたキノコの専門家が書いたものではないと判断できます(方言名は別ですが)。


ふつう辞書というのは分野別に専門家が執筆するものですから、この英和辞典の執筆陣にはキノコの専門家はいない[いてもこの項目を校閲していない]ということが、「キコリケ」の濁点だけではっきりわかります。


toadstoolをほかの辞書でしらべてみましょう。

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 まるくてひらたい、あるいは湾曲した頭部とみじかい柄をもつ菌類。多くの種類のtoadstoolは有毒。

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菌類の胞子をつくる子実体。典型的には丸いかさが柄についたかたちで、とくにたべられない、あるいは毒のもの。


どうもおもに毒キノコをさすことばのようです。

 

 COBは「toadstoolは毒があるのでたべられない菌類である」とキッパリ。

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ではいつもの画像検索で見てみましょう。

 

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おお、キノコファンのあこがれ、キノコの王、ベニテングタケ(学名Amanita muscaria)ばかりではありませんか!
Amanita muscariaはラテン語「ハエ(musca)のキノコ」の意味。このキノコの毒(イボテン酸)でハエを殺すことができます。ムスカ大佐とは関係ないようです。スペイン語でもイタリア語でもハエはmoscaです。

 


英語版のwikiのmushroomの項を見るとつぎのようにのっています。読んでみてください。

 

The terms "mushroom" and "toadstool" go back centuries and were never precisely defined, nor was there consensus on application.

The term "toadstool" was often, but not exclusively, applied to poisonous mushrooms or to those that have the classic umbrella-like cap-and-stem form.

(中略) In German folklore and old fairy tales, toads are often depicted sitting on toadstool mushrooms and catching, with their tongues, the flies that are said to be drawn to the Fliegenpilz, a German name for the toadstool, meaning "flies' mushroom". This is how the mushroom got another of its names, Krötenstuhl (a less-used German name for the mushroom), literally translating to "toad-stool".(Wiki)

 

 

 つまりtoadstoolというのはあまりはっきりとした定義がないけれど、毒キノコをさすことがおおいんですね。ドイツの民間伝承では、ガマくんが toadstool のうえにすわってキノコによってくるハエをペロンとたべるといわれていて、それがtoadstoolの語源なんですね

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          かわいい・・・


うえの学名の説明でも書いたように、テングタケ科のキノコにはハエを殺す成分がありますから、それがこの伝説をうんだのでしょう。日本人もこのことは古くから知っていたようです。ベニテングタケには「アカハエトリ」という別名もあるんですよ。

 

 

 

 

 それにしても「キコリダケ」とはどんなキノコなのでしょう?わたしはそれが知りたい。


「キコリダケ」をネットで検索してもたった5件しかありません。しかもヒットした文章を見ると、すべてはじめにあげた英和辞典がソースのようです。

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もしかしてキコリダケとはこの項を書いた執筆者の幻想の世界だけにはえているキノコなのでしょうか(松本零士の作品におけるサルマタケのような)?


ん? うえの検索画面で「もしかして:ホコリタケ」ってきかれてますね。

 

 ランダムハウスのtoadstoolの項を見てみると:

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3に「ホコリタケ」と書かれているではありませんか!

 


ホコリタケはありふれたキノコです。「キツネノチャブクロ」ともよばれています。

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           (撮影:ピエールとね)

 

子どものころ、こいつをふみつぶすと「ばふっ」と茶色の胞子がはでにとびちってたのしかった思い出があります(いまでもやってるけど)。

 

まさか「ホコリタケ」を「キコリダケ」とまちがえた?「ホ」と「キ」?音も字の形もあまりにてないけど。

 

どうもなぞはとけません。

 

博学なる読者のみなさん、「キコリダケ」についてごぞんじならなんでもいいので無知なぼくにお知らせください。

 

 

★このままではオチがつかないので、空想でキコリダケの説明をWikiふうに書いてみました。

 

キコリダケ: 真正担子菌綱キコリダケ目キコリダケ科キコリダケ属に属するとされるキノコ。日本のキノコのなかで「~ダケ」で終わる標準和名をもつのは本種のみである。

日本ではすでに絶滅した可能性が大きく、標本も画像も残されていないため、詳細は不明で、日本菌類学会ではインドのヴェーダに記載されたソーマとともに「幻のキノコ」とよばれることがある。
常陸国風土記によれば、たきぎとりのため深い森にはいった男たちの一行が枯れたシラカバの木を倒すと、その幹に黄色いキノコが群生しており、男たちが喜んでこれを採取し、焚火で焼いて食べたところ、非常に美味であったが、やがて(おそらく幻覚性の毒成分のために)男たちは酒に酔ったようになって歌いだし、ふらふらと踊りながら森の奥に分けいって二度ともどらなかったという。ただひとり、食べられるキノコに精通していてこのキノコをあやしみ、食べなかったきこりだけが生きて村に帰ったと伝えられている。この伝承にもとづき、菌類学者の清水大が「キコリダケ」と命名した。(Wikipediaより)

 

 

 

 

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 最後まで読んでやったのになんじゃこりゃ!   

   引き裂いたろかッ?

 

 

 Attaques à Paris 

パリが戦場になった日

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「やっぱりおきてしまった・・・」

 

フランスがシリア空爆をはじめたとき、「ああ、パリでも9.11がおきるな」と思いました。

だからそれほどおどろきはしませんでしたが、やはりショックでした。

 

このブログで時事ネタはやるつもりなかったんですが、きょうフランスのメディアの記事を読んでクリップしたものを訳してまとめておきます。

 

 

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 Les terroristes ont-ils laissé un message ?

 Selon un témoin présent lors de l’attaque du Bataclan, les terroristes n’étaient pas cagoulés mais lourdement armés. « Je les ai clairement entendus dire aux otages ‘’c’est la faute de Hollande, c’est la faute de votre président, il n’a pas à intervenir en Syrie’’.

 「テロリストたちはメッセージをのこしたのか?」

「バタクラン劇場が襲撃されたとき、その場にいあわせた目撃者によると、テロリストたちは覆面はしていなかったが重装備をしていた。『わたしはかれらが人質たちにはっきり言うのをきいた ”オランドのせいだ。おまえたちの大統領のせいだ。シリアに介入しなければいいんだ” と』」

 

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  au moins 1.500 spectateurs assistaient à un concert de hard rock lorsque plusieurs terroristes, au moins trois selon les autorités, ont ouvert le feu dans la salle aux cris de " Allahou Akbar " et "C'est pour la Syrie". 

「すくなくとも1500人の観客がハードロックのコンサートを見ているとき、数人のテロリスト(当局によるとすくなくとも3人)が『アッラーフは偉大なり』、『シリアの報復だ』とさけびながらホールで銃を撃ちはじめた」

 

 

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 La guerre en plein Paris

     「パリ全市で戦争状態」

 

  Au moins 126 personnes ont été tuées et plus de 200 blessées vendredi soir dans une série d'attaques terroristes sans précédent à Paris et près du Stade de France.

「金曜の夜、パリとスタッド・ドゥ・フランスのちかくで,前例のないテロリストによる連続的な襲撃により、すくなくとも126人が死亡し200人をこえる人が負傷した」

 

これはスタッド・ドゥ・フランスでフランス・ドイツ戦を見ていた人の証言。

 «On a entendu les explosions 25 minutes après le début du match. Il a continué normalement. Je pensais que c'était une blague», explique Ludovic Klein, 37 ans, venu de Limoges avec son fils de dix ans. «L'évacuation s'est faite dans le calme à part un petit mouvement de foule.»

「『試合がはじまって25分たったとき、なん度か爆発音がきこえた。試合はふつうにつづけられた。(爆発は)わるふざけだと思っていた。』とリモージュから10歳のむすこといっしょにきていたルドヴィック・クライン(37)は説明する。『みんなすこし動揺したが、避難はしずかにおこなわれた』」

 

Aux terrasses des cafés, Paris se fige.

「カフェのテラスでパリ(市民たち)は立ちすくんだ」

 

 «J'étais au snack grec en face du café quand un homme est arrivé armé à pied et a tiré sur des personnes en terrasse, raconte un témoin.

「『わたしがそのカフェのむかいのギリシャ料理のスナックバーにいたとき、武器をもった男があるいてやってきて、カフェのテラスにいる人たちにむけて銃を発射した』と目撃者が言っている」

 

 

 Des gens criaient: “N'allez pas par là-bas, il y a des coups de feu et des rafales”».

「人々がさけんでいた:『そっちへいくな、銃撃戦や乱射をやってるぞ』」

 

La préfecture de police de Paris envoie un message sur le réseau social Twitter : «Fusillades à Paris, nous vous invitons à ne pas sortir de chez vous en attendant les instructions des autorités».

「パリ警視庁はSNSTwitterにメッセージをながした。『パリで銃撃戦がおきています。家から出ないで当局の指示をまつようにしてください』」

 

J'ai vu quatre ou cinq corps qui jonchaient le sol, dans une mare de sang.

「わたしは4つか5つの遺体が血の海につかって道にちらばっているのを見た」

 

 

«Des gens jetaient des draps depuis leurs fenêtres pour qu'on puisse recouvrir les corps»

「人々が、遺体をおおうのにつかえるよう、自分の店のウィンドウからカーテンをなげていた」

 

 

Un homme en larmes raconte que sa sœur a été tuée. A ses côtés, sa mère explose en sanglots et se jette dans ses bras

「ある男性が泣きながら自分の姉妹が殺されたと言った。そのそばでかれの母親がはげしくむせび泣き、かれのうでのなかにたおれこんだ」

 

 

もうのんびりヨーロッパを旅したりできなくなってしまうんでしょうか・・・

 

 

 

 

ピザハットってどんなハット?

画像検索で英単語のお勉強 3

ピザハットってどんなハット?

 

日本人にはLRのききわけはむずかしいですが、英語の母音でききわけがむずかしいのはなんでしょう?ぼくは[ʌ][ɑ]の区別が意外ときついと思います。

[ʌ][æ]はききくらべるとかなり印象がちがうのでけっこうわかると思います。まあどれも日本語では「ア」になってしまいますが。

 

ところで「ピザハット」の「ハット」ってなに?

 

Pizza Hatだと思っていた人がかなりいるんですね。「ピザハット 帽子」で検索するとわかります。たしかに、いきなり書いてもらうとPizza Hatって書く学生さんがいるんです。

 

Pizza Hatで画像検索するとどうなるでしょう・・・

 

 

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・・・なんですか~これは~!?

pizza hatってほんとにあるのかよ!

いつつかうんでしょう、こんなおバカなもの。

(右下のおにいさん、pizza hatかぶってgiving the finger。おもしろしい人なのかヤバイ人なのかわかりません・・・)

 

気をとりなおして Pizza Hut を検索すると・・・

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ロゴのうえにのっているものがどうみてもぼうしにみえますからむりもありませんが、これは小屋のやねだそうですね。ちゃんとHut「小屋」ってかいてありますね。発音は[hʌt]です。[ʌ]は日本語の「ア」と発音してもだいたいOKでしょう。みじかめに発音しましょう。

hatは[hæt]ですね。「エ」の音にちかい「ア」です。こっちはながめに発音するのがコツです。

★ついでですが、英語のpizzaの発音は「ピザ」でも「ピッツァ」でもなく、ふつう[píːtsə]「ピーツァ」(長母音)だっていうのは知ってましたか? 

 

おなじ[ʌ][æ]のはなしになりますが、Goldman Sachs

[sæks]という超大手投資銀行がありますね。

これがそのロゴです。

 

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リーマンショックのときなどよくニュースできいたなまえです。平均年収4560万円(2013)とかいわれてました。もうけてる会社ってけっこうねたまれたり、かぜあたりがつよいと思います。

 

それで、だいぶむかしのことですが、ぼくはふと、

「この会社ねたまれているからひょっとしてGoldman Sucks[sʌks]ってダジャレいってるやついないかな?」

と思ったんです。

 

ググってみると・・・

 

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こんなのがいっぱいあるやん(笑)!

 

(おかしなことに、日本語でダジャレを思いついて検索して、それがあるとがっかりするのに、英語のダジャレを考えてサーチしてそれが存在するのがわかるとぎゃくにすごくうれしいんです。)

 

*"~ sucks!"というのは「~はムカつく、へどがでる、最悪だ」みたいな意味なんです。TEDのスピーチとかでもつかう人がいますが、よいこのみなさんはしっていてもつかわないほうがいいと思います。

 

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こんなのもってデモしている人もいます。

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こんなのもありました。

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もとネタは葛飾北斎? suckの本来の意味は「すう」ですから、こんなひどい絵にされたんでしょう。bloodsuckerには「血を吸いとるやつ→ヒルなどの吸血動物→人から金をまきあげるやつ=a person who takes advantage of other people to gain financial benefit 〈OALD〉」という意味があります。

こんな文を見つけました。

It may be possible to call Goldman Sachs a bloodsucker without being an anti-Semite.

反ユダヤ主義者になることなくGoldman Sachsをbloodsuckerとよぶことはできるだろう」How to Think About: Jewish Bankers - The Wire

 

T-shirtも売ってます。なんだかモデルさんもたのしそうですね。

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もしGoldman Sachsの関係者の人と英語で話す機会があるなら、[sʌks]って発音しないようにくれぐれも注意しましょう。へたすると一瞬で相手のきげんをそこねるかもしれませんよ。

 

[æ]と[ʌ]を注意しないとヤバイ単語はほかにもありますよ。注意しましょう。

某哲学者のなまえとか・・・

 

 

きょうはくだらないはなしですみませんでした。 C U !

 

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     ポンdeスズ・・・

まちがいさがし 8 ホテルの英語(2)

まちがいさがし 8 ホテルの英語(2)

国際都市東京の外国人がいっぱいいるホテルですが、ユニークな英語がいっぱい。たいくつしません。

 

今回は読者のみなさんがさがしてみてください。変なところはいくつあるかな?

 

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変だと思ったところはコメントらんにかいてください。

お待ちしてます。

 

それではまた。

 

 

Le Petit Prince の歌でフランス語入門

★「星の王子さま」のうたで

フランス語にしたしみましょう!

 

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高校生のころからフランス語にはあこがれていました。

 

思えばぼくがことばをすきになるのはいつも歌からでした。

テレビでFrançoise Hardyの歌 Ma Jeunesse Fout le Camp「もう森へなんか行かない」をきいてわすれられなくなり、レコードをかいにいきました。

 

フランス語の起源はスペイン語やイタリア語とおなじラテン語なのに、ゲルマンやケルトなどの影響なのか、独特のひびきをもつふしぎなことばです。

 

でもじつは音については日本人に意外となじみやすいことばだと思います。英語やスペイン語のようなはげしい強弱アクセントもなく、つよい母音がながくよわい母音がみじかくなることもあまりなく、タタ タタタ タタタタというおなじながさの音節がつづくリズム。日本語ににています。つづりもはじめは変にみえるけど、なれると英語よりだいぶましです。

そのうえ語彙はかなり英語とかぶっているし、文法も英語でおぼえたことが応用できるところがいくつもあります。

 

むかしNHKテレビのフランス語講師をしていた加藤晴久先生の本「憂い顔の『星の王子さま』」(すばらしい本です)にはつぎのようなことばがありました。

 

「英語とフランス語は基本的には同じ言葉とさえ言えるほど似ている。」

 

ぼくのような万年初心者ではなく、フランス語ひとすじの専門家がこういっているんです。いやぼくもそう思います、英語の語彙と文法をひととおり知っている人がもうひとつやるなら、フランス語以外にないって。

 

せっかく英語をならったのに、フランス語の世界をまったくたのしまないのは損だ思います。

 

英語はたしかにゲルマン語でしたが,とりわけ1066年のNorman Conquestあたりから、フランス語の影響がどんどんつよまって英語はかわっていきました。いまのフランス語が英語ににているように見えるのは、じつは英語のほうがフランス語化したからです。

 

さて、フランス語にちょっとだけ興味があるという人に、ひとつ歌をご紹介したいと思います。

 

Gérard LenormanのLe Petit Prince星の王子さま」です。

 

この歌はぼくが大学生だったころ、テレビのフランス語講座できいて気にいった歌です。文法的にもやさしいほうだと思います。ゆっくりしているので音もききとりやすいでしょう。

 

いい歌なのにネットにもこの歌を解説しているところがあまりないようなので、ドしろうとのぼくなりにがんばってみようかと思いました。

 

説明はまったくフランス語を知らない人をイメージして書きました。なにぶんぼくもしろうと(たぶん高校1年生の英語力レベル?)なので思わぬまちがいがあるかもしれませんのであしからず。

 

とにかく、この歌をおぼえるだけでずいぶんいろんな文法・表現・発音をまなべますよ。

 

 フランス語の音と文法へのイントロダクションとしていかがでしょう?

 Le Petit Prince Gérard Lenorman

www.youtube.com

 

On ne sait pas qu’il est 
On ne sait pas d'où il vient 
Il est né avec la rosée du matin 
Une rose entre ses mains 


Voyageur de l'infini 
Jeune Prince de la lumière 
Tu connaissais tous les secrets de la nuit 
Les chemins de l'univers 

(*---* refrain)
*J'attendrai ton retour 
Jusqu'à la fin des jours 
J'attendrai ton retour 
Prince blond de l'amour *

Il est venu sur la terre 
Et n'a vu qu'un grand désert 

Quelques fleurs sauvages, 
Un renard argenté et un poète égaré 


Il s'ennuyait bien souvent 
De sa rose, de ses volcans 
Il a demandé au serpent son ami 
De le ramener chez lui 

J'attendrai ton retour 
Jusqu'à la fin des jours 
J'attendrai ton retour 
Prince blond de l'amour

J'attendrai ton retour 
Jusqu'à la fin des jours 
J'attendrai ton retour 
Prince blond de l'amour

 

 

 

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 *それでは解説します。

(フランス語の下に英語のほぼ直訳を書きました。この英語はフランス語の構造をわかってもらうためのものなので、英語としては不自然なものもあるのでご注意。またいちおう発音をカタカナでかきましたが、ほんとうの発音をカナであらわすことはできませんから、ぜひ歌をなんどもきいて耳で音をつかんでください。)

 

1 On ne sait pas qu’il est 

(=One doesn’t know who he is)

「かれはだれなのか わからない」

 

★on(オン)はばく然と「人」をさす代名詞。この(オン)は鼻のほうへ空気をぬきながら発音します。いわゆる「鼻母音」です。nで舌を上の歯ぐきにつけません。鼻母音を出せるとフランス語らしくきこえます。歌をきいて感じをつかんでください。

★ne(ヌ)とpas(パ)はnotの意味で、ne + V + pasで動詞を否定します。pasは「歩」の意味で,ne + V + pasは直訳するともとは「一歩もVしない」でしたが、いまは単なる否定です。pasのsは発音しません。フランス語は発音されない文字が多い(特に語末の子音字)です。

★sait(セ)は動詞savoir「知っている」の現在3人称単数形。

★qu’il est  の qu’il(キル)はqui(キ)「だれ」とil(イル)「かれ」がくっついたもの。est(エ)は動詞être(エートル)(=be)の現在三人称単数形。stは発音しません。全体で[キレ]と発音。

 

 なお、onの語源はラテン語の homo「人」です。フランス語ではonは英語のoneよりずっとおおくつかわれます。weの意味になることもあります。On y va.(オニヴァ)はLet’s go.の意味。


2 On ne sait pas d'où il vient 

(=One doesn’t know from where he comes)

「かれはどこからきたのか わからない」

 

★d'oùは前置詞de(ドゥ)「~から」とoù(ウ)「どこ」がくっついたもので[du]と発音。deは[də]で母音はあいまいですが、d'oùでは[ウ]の音をつよくだしましょう。

フランス語では前置詞はいつも疑問詞の前です。英語みたいにwhere he comes fromというかたちはありません。

 

★vient(ヴィヤン)はvenir(ヴニール)「来る」の現在3人称単数形。enは鼻母音でtは発音しません。

 

3 Il est né avec la rosée du matin 

(=He was born with the dew of morning)

「かれはあさつゆとともにうまれた」

 

★est né(エ・ネ)はêtre(=be) の現在3人称単数形+ naître(ネートル)「生まれる」の過去分詞(ilとestはくっつけて「イレ」と発音します)。

英語にむりにおきかえるとis bornになりますが、これは受け身ではありません。naîtreは自動詞なので受け身はありません。

これは過去をあらわすかたちなのです。

 

現代の口語フランス語では英語の過去形にあたるものはつかいません。かわりに英語の現在完了形にあたるかたちで過去をあらわします。英語だと現在完了形にyesterdayとかlast yearとかつけるとおこられますが、フランス語ではそういうのをつけてもOKです(英語でもむかしはOKでした)。これは「複合過去形」というこわそうな名前でよばれていますが、つまりは現在完了形です。

ただし、英語のばあいはなんでもhave+過去分詞でいいですが、フランス語では動詞の種類により、ふたつの助動詞をつかいわけます

 

1 移動や状態の変化をあらわす自動詞なら  

  êtreの現在形+過去分詞

 

2 それ以外の動詞なら               

  avoir(=have)の現在形+過去分詞

 

 1の動詞にはaller「いく」, venir「くる」, partir「出発する」, arriver「到着する」, rentrer「もどる」, entrer「はいる」, tomber「おちる」, monter「のぼる」, devenir「なる」, naître「うまれる」, mourir「死ぬ」 など。これらは言語学で「非対格動詞」とよばれています。

 

じゃまくさいですが、イタリア語にもドイツ語にもこういう区別があります。英語にもかつては区別があって、He is gone「かれはいってしまった」.とかSpring is come「春がきた」.(古風)などの表現がそのなごりです(英語以外だと、スペイン語にはこの区別がなくなっていて楽です)。

ちなみに古典日本語の完了の助動詞の接続にもこれににた区別があって、1系の動詞には「ぬ」を、2系の動詞には「つ」をつけたそうです。

 

★avec(アヴェク)はwithにあたる前置詞。la(ラ)は女性名詞につく定冠詞(=the)。rosée(ロゼ) は女性名詞「露」、du(デュ) は前置詞de(=of)と男性名詞につく定冠詞 le(ル)がくっついたもの。deにはofとfrom両方の意味があります。matin(マタン)は男性名詞「朝」。inは鼻母音。フランス語の名詞はすべて男性と女性にわかれます。語尾で区別することもある程度はできますが、スペイン語(→スペイン語を学ぼう 参照)のように簡単な方法はありません。

*ただし、「秘伝」があります。スペイン語(イタリア語)をまなぶとフランス語の名詞の性もまちがいいにくくなるんです。フランス語の単語の性がわからないときは、その語と同語源のスペイン語の単語を思い出します。その性は90%くらいの確率でフランス語の単語の性と一致するのです。たとえば:

フランス語のéglise「教会」の性がわからない→スペイン語の「教会」iglesiaを思い出す。→ -aでおわるから女性 → égliseも女性?→あたり!

フランス語のciel「空」の性わすれた!→スペイン語 cielo「空」 を思い出す→-oでおわるから男性 → cielも男性?→あたり!


4 Une rose entre ses mains 

(=(with) a rose in his hands)

「ひとつのバラを両手にもって」

 

★une(ユヌ)は女性名詞につく不定冠詞(=a)。rose(ローズ)はバラ。さっきでたrosée(ロゼ)との発音のちがいに注意。eにアクセント記号(アクサン)がついたéは「エ」と発音します(つよくよむのではありません)。いっぽうroseのように単語の最後のeにアクサンがないときはふつうeは発音しません。

★entre(アントル)はbetween。internationalのinter-とおなじ語源です。enは鼻母音です。「オン」にきこえるかも。ses(セ)は3人称の所有格の代名詞son[所有形容詞]の複数形。といっても「かれらの」という意味ではありません。複数形の名詞のまえにつくかたちなのです。ここでは王子をさすので「かれの」の意味。

奇妙なことにフランス語の3人称単数代名詞の所有格には「かれの」「かのじょの」という区別はありません。「その人の」という意味しかありません。男性単数名詞につくときはson、女性単数名詞にはsa、複数名詞にはsesとかたちがかわるだけです。初心者はsaを「かのじょの」,sesを「かれらの」だとかんちがいすることがあるようです。(「かれらの」にはleurという語を使います)

★mains(マン)「手」。女性名詞ですが複数形です。フランス語の名詞の複数形はほぼすべて-sをつけるだけ。しかもふつうは発音しません。だから名詞だけきいても単数か複数かわかりません。冠詞や所有格のかたちで単数複数を区別します。「サ マン」なら「かれ[かの女]のかた手」、「セ マン」なら「かれ[かの女]の両手」の意味になります。まあ日本語の「この本」「これらの本」とおなじような感覚です。

mainの語源は英語のmanual「手の」とおなじ。スペイン語・イタリア語ではmanoです。どの言語でも女性名詞。

★この部分は英語の「付帯状況のwith」の副詞句のような意味で,est néにかかっています。

 

 

5 Voyageur de l'infini 

(=traveler of the infinity)

「無限の旅人」

 

★voyageur(ヴワヤジェール)「旅人」。英語でもつかうBon voyage!「よい旅を」のvoyage「旅」の派生語。でも英語のvoyager(ヴォイジャー)とはだいぶ発音がちがいます。eurは[ジェール]と[ジュール]のまんなかくらいの感じの音です。

★l'infini(ランフィニ)は男性定冠詞le(ル)がinfini(アンフィニ)「無限(の世界)」と合体したもの。ふつう母音ではじまる名詞は定冠詞と合体します。例 la + église →l’église(レグリーズ)「教会」。この in も鼻母音。


6 Jeune Prince de la lumière 

(=young prince of the light)

「おさないひかりの王子」

 

★jeune(ジェヌ)「若い,おさない」。prince(プラーンス)「王子」。lumière(リュミエール)「光」。神戸のluminarie「ルミナリエ」、血痕の検出につかわれるluminol「ルミノール」などと同語源。

 

 


7 Tu connaissais tous les secrets de la nuit 

(=You know all the secrets of the night)

「きみはよるの秘密をすべてしっていた」

 

★tu(テュ)はyou。connaissais(コネセ)は動詞connaître(コネートル)「知っている」の半過去2人称単数形というかたちです。「半過去」とは変な名前ですが気にしないでください。とりあえず、過去の状況・状態をあらわす、と思ってください。

*フランス語にはふたつの「知っている」があります。1 On ne sait pas qu'il estにでてきたsavoirは「事実を知っている」、いっぽうconnaîtreは「〈人・もの〉を(見たりきいたり)して知っている、認識している」という意味です。この区別はイタリア語、スペイン語、ドイツ語にもあります。英語や日本語にはこの区別がないので、日本人は(ぼくもふくめ)かならずこのふたつを混同します。

 savoirは英語のsavvy「知識;見識がある」,sage「賢人,かしこい」とおなじ語源で,ラテン語sapere「~をあじわう,区別する」がもとです。いっぽうconnaître はconnoisseur「目利きの人,通,鑑定家」やrecognize, cognizeとおなじ語源で,すべてラテン語cognoscere「~を知っている」からきています

 

★tous(トゥ)はallの意味。複数名詞につくかたちです。les(レ)は定冠詞の複数形。複数になると定冠詞は男性女性の区別がなくなり、すべてlesになります。フランス語では複数形の名詞につける形容詞にも冠詞にもすべて-sがつきます。でも発音はふつうしません。tousの単数形はtoutで,語源はtotalとおなじ。イタリア語ではtuttoスペイン語ではtodoとなります。

 

★secrets(スクレ)「秘密」。英語のsecretsとまったくおなじつづりですが、tもsも発音しません。

★nuit(ニュイ)「夜」。女性名詞。 Bonne nuit.(ボンヌ ニュイ)「おやすみ」。英語のnightとは遠い祖先がおなじだそうです。

 


8 Les chemins de l'univers 

(=the ways of the universe)
「宇宙のみちを」

 

★chemins(シュマン)「道」の複数形。univers(ユニヴェール)「宇宙」。この語句も7のconnaissaisの目的語。

 cheminはスペイン語camino「道」,イタリア語のcammino「歩行,道」と同語源。

 

   ◆つぎはrefrain(ルフラン)の部分です。


9 J'attendrai ton retour 

(=I’ll wait for your return)

「ぼくはきみがかえるのをまつよ」

 

★J’attendrai(ジャターンドレ)はje(ジュ)「わたし」と動詞attendre(アターンドル)「~を待つ」の1人称単数未来形が合体したもの。attendreは英語のattendとおなじ語源。

★tonは2人称単数の所有格で男性単数名詞につくかたちです。retour(ルトゥール)「帰り」は英語のreturnとおなじ語源。re(ふたたび)+tour(まわる,もどる)。


10 Jusqu'à la fin des jours 

(=until the end of the days)

「ひがくれるまで」

 

★Jusqu'à(ジュスカ)「~まで」。fin(ファン)「おわり」。des(デ)は前置詞deが定冠詞複数形lesと合体したもの。finは英語のfinish,イタリア語のfine「終わり」とおなじ語源。jours(ジュール)はjour「日」の複数形。Bonjour.(=bon(よい)+ jour)はおなじみですね。英語のjournal(もとは「記」の意味)とおなじ語源。

 


11 Prince blond de l'amour 
(=blond Prince of the love)

「金髪の愛の王子」

 

★blond(ブロン)「金髪の」形容詞。フランス語の形容詞はふつう名詞のうしろにおきます。

★l’amour(ラムール)は定冠詞leとamour(アムール)「愛」がくっついたもの。amateur「好者、アマチュア」、amiable「想がいい」とおなじ語源。イタリア語ではamore、スペイン語ではamorです。

 


12 Il est venu sur la terre 

(=He has come on the earth)

「かれは地球におりた」

 

★est venu(ヴニュ)はêtre(=be) の現在3人称単数形+ venir(ヴニール)「来る」の過去分詞で複合過去形(→3参照)。英単語 prevent「(まえに来る→)~をじゃまする」とは同語源。revenue「re(もどって)+venue(来たもの)= 収入」もおなじ。

★sur(シュル)「うえに」前置詞。surrealism「シュルレアリスム現実主義」のsur-とおなじです。

★terre(テール)「地球、大地」。イタリア語ではterra、スペイン語ではtierra。映画 ET はextraterrestrial「地球外の(生命体)」の意味。SFに出てくるterraforming(惑星を地球のようにつくりかえること)、Mediterranean「中海の」にもおなじ語源がはいっています。


13 Et n'a vu qu'un grand désert 

(=And saw only a big desert)

「そしてみえたのはただ ひろい砂漠と」

 

★et(エ)「そして」=and。 n’a(ナ)はne(=not)+ aが合体したもの。このaは動詞avoir(アヴワール)(=have)の現在3人称単数形。vu(ヴュ)はvoir(ヴワール)(=see)の過去分詞。

★a + vuで「~をみた」という複合過去形(→3参照)。 

★qu’un(カン)はque +不定冠詞男性形un(アン)の合体。ne ... que ~で「~しか...ない,~よりほかに...ない」つまりonlyの意味になります。このqueはthanの意味です。

★grand(グラン)「大きな」。 désert(デゼール)「砂漠」。英語のdesertとほぼおなじつづりですね。語源的意味は「見すてられた土地」で動詞desertと関連します。


14 Quelques fleurs sauvages, 

(=Some wild flowers)

「いくつかの ののはなと」

 

★quelques(ケルク)(=some)。fleurs(フルール)「花」。flowerとおなじ語源。スペイン語ではflor,イタリア語ではfiore。

 

sauvages(ソヴァージュ)「野生の」という形容詞。fleursにあわせて-sがつき複数形になっています。英語のsavageとおなじ語源。

 


15 Un renard argenté et un poète égaré 

(=A silver fox and a stray poet)

「ギンギツネとみちにまよった詩人だけだった」

 

★renard(ルナール)「キツネ」。argenté(アルジャンテ)「銀の」。ラテン語 argentum「銀」から。Argentina「アルゼンチン」もおなじ語源。poète(ポエト)「詩人」。égaré(エガレ)「道にまよった」。

フランス語の「ガ」はちょっと「ギャ」にちかくきこえます(でも決して「ギャ」ではありません)。だから歌手のFrance Gallは「フランス・ギャル」,garçon「男の子」は「ギャルソン」と書かれるわけですね。

 


16 Il s'ennuyait bien souvent 

(=He very often misses)

「かれはいつもこいしくおもっていた」

 

★s’ennuyait(サンニュイエ)は動詞s’ennuyerの半過去3人称単数形(→7参照)。s’ennuyerは再帰代名詞se(=oneself)とennyuyerがあわさったもの(こんなふうに頭に再帰代名詞をくっつけた動詞は、フランス語文法では「代名動詞」という変な名前でよばれます)。スペイン語文法やイタリア語文法の本では「再帰動詞」です。

 

ennuy「アンニュイ」って日本語でもつかいますね。でもs’ennuyer de ~は「~をこいしくおもう」という意味になります。つぎのDeにつながります。souvent(スヴァン)(=often)。bien(ビヤン)は「とても」。

 


17 De sa rose,  de ses volcans 

(=his rose, his volcanos)

「バラと火山を」

 

★saは3人称単数所有形容詞の女性名詞につくかたち。sesはおなじくその複数形(→4)。 volcans(ヴォルカン)「火山」=volcanos。

 


18 Il a demandé au serpent son ami 

(=He asked the snake his friend)

「かれはともだちのヘビにたのんだ」

 

★a demandé(ドゥマンデ)はdemander(ドゥマンデ)(=ask) の複合過去形(→3参照)。

demander à A de Vで「AにVしてとたのむ」です。19のDeにつながります。demanderはもちろん英語のdemandとおなじ語源。au(オ)は前置詞à+定冠詞leがくっついたかたち。serpent(セルパン)「ヘビ」。son ami(かれのともだち)は「ソンナミ」とくっつけて発音します。serpentとson amiは同格関係です。

 


19 De le ramener chez lui 

(=to take him back home)
「ふるさとにつれかえってと」

 

★deは18で説明したdemander à A de Vのdeで、英語のto不定詞のtoとおなじはたらきをしています。leは不定冠詞ではなく、「かれを」という意味の代名詞。ロマンス系の言語では代名詞が動詞のまえにくることがよくあります

★ramener(ラムネ)は「~をふたたびつれていく, つれもどす」。

★chez(シェ)は「~のうちへ」をあらわす前置詞。lui(リュイ)は代名詞「かれ」の前置詞のあとにおくときのかたちです。

 

またまたヘヴィーな記事でしたが、いかがでしたか?

 

キツネとかヘビとかいろんな「キャラ」がでてきて「星の王子さま」をよんだことがないと、なんのことだかわかりにくいところもあったと思います。

 

星の王子様の本のほうも(なに語でもいいですから)ぜひよんでみてください。この歌詞がなにをあらわしているのかもよくわかりますよ。

 

このうたでフランス語をすきになるひとがいればうれしいです。

 

 

 

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それでは Au revoir!  A bientôt!

 

Lie と Lay をわすれなくする方法

Lie と Lay をわすれなくする方法

 

 

学生だったとき、イギリスでホームステイして英語についていろいろ発見したことをおぼえています。

 

ある日、心臓発作かなんかの first aid のことを書いたleafletが部屋におかれていたので、ふと見ると,こんな英語が目にはいりました。

 

1 Lie the patient on his back.

 

 

 

「ん?これ Lay the patient ...のまちがいじゃないの?」

 

ふーん、Nativeでもこんな初歩的なまちがいするのか、とちょっとおどろきました。

 

そこで、そばにいたホストファミリーのおじいちゃんにDon’t you think this “Lie” should be “Lay”?とたずねてみました。

 

するとおじいちゃんはその文をなん秒かじっと見たすえ、

 

   “Either is OK.”

 

と言いました。

 

はあー?

どっちでもいいの??ぼくの国ではこんな文書くとおこられるんですけど・・・あなうめ問題でこれLieにしたら大学落ちるかもしれないんですけど・・・家庭教師のバイトでもいつもlieとlayの区別教えてきたんですけど・・・・・・・どっちでもいいんですかー??

 

ショックが大きかったので、あくる日、Language Centerの先生にききました、

「きのうおじいさんにこんなこと言われました。ほんとうにどっちでもいいんですか?」って。

 

そしたらYou shouldn’t ask him a question like that.って言われました。ふつうのイギリス人にそんなややこしいこときいちゃだめって。

ええー?ふつうのイギリス人にきけないようなややこしいことなの?

 

lieとlayの区別をいっしょうけんめい教えてきたのがなんだかバカらしく思えたのをおぼえています。このときぐらいからかも、文法とか語法というものを絶対視しなくなったのは。

 

lieとlayがあべこべになっているのは、それからもかなりみつけました。layをつかうべきときにlieにしているのがおおい気がしますが、その逆もあります。

 

ごぞんじ The Catcher In The Ryeライ麦畑でつかまえて」のちょうどまんなかあたり(ぼくのもってる本ではp.100)にもこんな文がでてきます。

 

All of a sudden, while I was laying there smoking, somebody knocked on the door.

 

SalingerがHoldenのキャラ造形のためにあえてこうしたか、それともSalinger自身が自然に感じている言いかたなのか。それはわかりません。

 

いまGoogle Booksでざっとしらべると

 

lay the patient”  94件

lie the patient”   62件!!

(“... lie. The patient ...” など,V+Oになってない例はちゃんととりのぞきました。)

 

  ↓こんな本がいっぱい

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  "Official"な本なのに?

 

こんだけ多いと、もはやまちがいとはいえないのかもね。

 

   ちょっと辞書を見てみましょう。

lieをひいてみると・・・

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 この辞書ではlieを「~をよこたえる=lay」の意味で使うのは「方言」だそうです。

 

layをひくと・・・

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16の" LIE" とは「lieの意味で使う」ということです。「この使い方をまちがいと考える人もいくらか(some)いる」って、「多く」じゃなくて「いくらか」なの?

 

 COB様にもうかがってみましょう。

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 generally?  usually?

その程度のちがいなんですか?

 

 

Ngramでもしらべてみましょう

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うーん,lie the patientけっこうむかしからおおいんですね・・・

 

 

 

 

 

でも、この極東の島国の大学入試では、自動詞・他動詞がらみの問題でlieとlayの区別が出題頻度で堂々のトップなんです。

 

 

 

 

lieとlayでいつもまよってしまうのはあなただけじゃないですよ。ぼくも高校生のときはそうでした。

 

でもあることに気づいてから二度とまよわなくなりました。

 

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ね!英語も日本語も母音を変えることで自動詞と他動詞を区別しているんですね。日本語にはほかにも「しまる」「しめる」とか「とまる」「とめる」とかいっぱいあります。

 

英語ではこういう動詞はそうたくさんはありませんが、riseとraiseというのもありますね。これもややこしいという人はこんなふうにおぼえてみてください。

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ついでに言うと、高校生のときは、lieとlayをおぼえるのに、上以外にも:

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というこじつけもあわせてつかっていました。

 

それから

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なんていうのも考えました。こうおぼえるとつづりも発音もまちがえなくなります。

layについても、「ついローマ字っぽく『ライ』って読んでしまう」という人は、layを発音するときsay, may, playなどを思いだしてください。-ayは[ei]がデフォなんですね。

 

さて、なんとか原形の意味をおぼえても、変化もややこしいですね。

lie - lay - lainという変化はほかににたのがないのでおぼえるしかないです。過去形がlayになるところに悪意を感じますね。じつは入試ででるのもほぼ過去形ばかりなんです。たとえば:

 

Mary was so tired she (   ) down and slept.
①laid  ②lied  ③lain  ④lay

 

 

wasもsleptも過去形なので(    )にも過去形がはいります。答はlieの過去形の④lay「よこになった」。

 

★lieとlayの問題では、まず他の動詞の時制をチェック、 です。

 

いっぽうlayの変化はつづりも発音もpayとおなじなので、これをいっしょにおぼえておけばぜったいわすれませんよ!  

 

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みなさんも丸暗記しにくいものは、こじつけたりすでに知っているものとむすびつけたりしてくふうしてみてください。

 

 

 

それではまた~。   再見!

 

        The cat is lying on the floor.

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 「にんげんて こまけーことでいろいろたいへんだな。わがはいはネコでよかったわ」

時制を「見える化」する---完了形のしくみ DTP理論

時制を「見える化」する

完了形のしくみ DTP 理論のご紹介

 

 

きょうはひとつ、完了形のしくみを考えましょう。ぼくが「見える英文法ジャパンタイムズ)」や「CNN English Express, 2015年9月号(朝日出版)」の特集で書いた考えかた、視点とできごとの時点のふたつの時点を用いたDTP理論(Dual Time Point Theory「2時点式・複合的時間表現理論」)を使ってお話ししたいと思います(注1)。大げさな名前をつけましたが、べつにむずかしい言語学の理論ではありません。それどころか、自分ではたいへんシンプルで自然な考えかただと思っています。

 

完了形はややこしいイメージがあるかもしれませんが、基本的なしくみはとてもシンプルなのです。

 

たいていの文法書では、完了形を現在形や過去形などとおなじように、1つの動詞の形のようにあつかっています。表面的にはそれでいいのかもしれませんが,これが完了形のほんとうの理解をじゃましているのかもしれません。

 

動詞の「過去形」はたしかに動詞がある形(たとえばgive→gave)になったものです。

でも「完了形」ってひとつの動詞の形ではありませんよね。have + 過去分詞というふたつの部分からできています。なんでこんなパターンになったのでしょう?

 

じつは古い英語の現在完了形(8世紀くらいまで)はいまと語順がちがいました。

いまの英語の

I have written + a letter. はむかしは

I have a letter + written. の順だったのです。

 

これはいわゆる SVOC みたいな構造で、直訳すると「わたしは手紙を、(すでに)書かれた状態でもっている」です。

 

つまり完了形の「助動詞」haveも動詞のhaveとおなじ、「もっているという意味だったわけです。

 

英語とおなじゲルマン語系のドイツ語の現在完了はいまでもそれににた語順です。

 

Ich habe einen Brief geschrieben.

「わたしは手紙を書いた」

(Ich habe=I have, einen Brief =a letter, geschrieben=written)

 

とにかく、完了「形」はhaveと過去分詞という2つのパーツからできているのだから、ひとまとめにせず、すなおに意味も2つの部分に分析して考えてみたらどうでしょうというのが、DTP理論の根本的な発想なのです。

 

そもそも完了形は「ある時を視点として、それ以前のできごとを語る」表現です。「視点」と「できごと」という「2つの時間」に関係するから、パーツも2つあるのではないでしょうか?

 

というわけで,完了形の基本的しくみをつぎのように「見える化」してみます。

 

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haveは視点となる時点を表します。上で言ったように,完了形のhaveももとは動詞のhave「~をもっている」でした。一方、過去分詞(Vedであらわします)は「すでにおきたできごと」をあらわします。この2つをくみあわせると、「ある時点で、すでにV がおきた状態をもっている[=状態にある]」という意味が生まれます。

haveが現在形なら視点は現在となり、現在完了形となります。

 

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たとえば、次の文のしくみはどうでしょう。

 

 1) I’ve just finished reading his book.

  「わたしはかれの本を読みおわったばかりだ」

 

 いわゆる完了の意味ですが、この文を直訳すると、「わたしすでに本を読みおわった状態を、(いま)もっている」となります。

次のようなイメージです。

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過去完了形はどうでしょうか。よく「過去の時点よりもまえをあらわす」と言われますね。文法書では、過去完了もやはりひとつの形として、haveと過去分詞を一体化してとらえているものがほとんどです。

たとえば過去完了をこんなふうにあらわしている本が多いでしょう。

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これだけでなっとくできるならそれでいいんですけど・・・

 

過去完了形を考えるまえに、ちょっとつぎの文を見てください。

 

2) When I arrived at the station, I had only 500 yen.

「駅に着いたとき,わたしは500円しかもっていなかった」

 

この文にはふたつの動詞があります。arrived hadです。どちらも過去形ですね。had の時点は arrived の時点とかさなっていますね。つまり「わたしが駅に着いた時点で、わたしは500円もっていた」のですね。

ふたつの動詞があらわす事態が同時点であるという解釈は,つぎのようにふたつのセンテンスにしてもふつうおなじでしょう(注2)

 

2’) I arrived at the station. I had only 500 yen.

 「わたしは駅に着いた。500円しかもっていなかった」

 

見える化するとこんな感じでしょう。

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 ふたつの事態がおなじ時点にあることを、動詞をたてにそろえてあらわしています。

 

ではつぎに過去完了形を考えてみましょう。

基本的なしくみはつぎのとおりです。

 

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過去完了形では、hadがhaveの過去形なので、視点は過去になります。

ただし、1つ注意すべきことがあります。

現在完了の視点はいちいち言わなくてもいつも=nowと考えればいいのですが、過去の時点は無限にありうるので、原則として過去完了は視点がはっきりあたえられないと使えないのです。時点 の値があたえられてはじめて使えるのです。

次の文を見てください。

 

4) When I arrived at the station, the train had left five minutes earlier.

「わたしが駅に着いたとき,電車は5分まえに出てしまっていた」

 

ここではわたしが駅に着いた(arrived)時刻が視点となります。2) のばあいとおなじく、had の時点は arrived の時点とおなじだと解釈されます。そうすれば完了形の基本構造により自動的に、leftというできごとがおきた時点は arrived の時点よりも前ということになりますよね!

直訳すると「わたしが駅に着いた時点で、電車はすでに出た状態をもっていた」ということです。

見える化してみましょう。

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例文 2) の図とおなじく、arrivedとhadはおなじ過去形なので、たてにそろっている(つまり同時とみなされる)わけです。

つぎのようにふたつの文にわけても解釈はふつうおなじです。

 

4’) I arrived at the station. The train had left five minutes earlier.

 

このように、過去形の動詞が過去完了形に視点をあたえる役割をはたすことがよくあります。

 

見える英文法ジャパンタイムズ」では,ここでお話ししたDTP理論を応用・発展させて、完了形のいろいろな意味はもちろん、過去完了をつかうべきばあいとつかうべきでないばあい,それから過去完了よりさらに複雑でややこしいと思われがちな未来完了や、完了形の不定にいたるまでわかりやすくお話ししています。

 

きょうの記事で興味をもたれたかたは読んでみてくださいね。

   Amazon.co.jp: 見える英文法: 刀祢 雅彦: 本

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   それではまた,  ¡Hasta pronto!

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★注2) はめんどくさいので,無視していただいてもよろしいかと思います 。ひまなかたは読んでください。

(注1)この表現法のルーツはぼくの修士論文で,かつては大学講師のバイトで、このネタだけで1年間、英語学特殊講義をやったこともあります。Multiple Timeとは,ひとつの動詞句が完了形のような複合的な構造をもつときは、時間的にもいくつもの時点をふくんでいるとみなすということを言いたいわけです。ぼくの修士論文はReichenbach(1947)のSRE理論を批判する内容で,SRE理論もひとつの動詞句にS(speech 発話時), R(reference参照時点), E(event事象の時点)の3つを設定するものですが、これはなんか形而上的というか、抽象的すぎて動詞句の構造を反映していないのが不満だったのです。

 

(注2)すこし言語学的にくわしく言いますと、

SV1. SV2. SV3. ... と過去形の動詞(句)V n をふくむ文がならぶとき、つぎの a) と b) のばあいがあります。

 a) 動詞(句)V2, V3が時間的に「有界の(unbounded)述語」(後述)なら,この「物語の時間」はV1の時点=t1のままでとどまり,前にすすまない(つまりt1=t2=t3) のがふつう(無標、いわゆる「デフォ」)の解釈でしょう。

 

例)わたしは駅に着いた(V1)腹が痛かった(V2)。さいふには500円しかなかった(V3)

 

この b) が例文2')のケースですね。

「ふたつの事態がならんで描写されていたら、原則としてそれらはおなじ時間に存在しているとみなせ(その解釈をさまたげる情報がないかぎり)」というようないわば同時解釈の原則(simultaneity interpretation principle)」がはたらくのでしょう。

 

 b) V2, V3が「有界(bounded)述語」(後述)なら「物語の時間」は t1→t2→t3 と前に動いていくのがふつう「デフォ」と言えます。(こむずかしい名前をつけるならchronological iconicity principle「時系列的アイコン性の原則」でしょうか。iconicityとは事象とそれを描写する言語表現のかたちや構造が類似していることです。ここでは事象がおきた順序とそれに対応する動詞がならんでいる順序がおなじということです。

 

例)わたしは駅に着いた(V1)。腹が痛くなった(V2)。トイレにかけこんだ(V3)

 

 

有界」とは,おおざっぱに言うと、事態の継続時間(はじめとおわり)がはっきり限定されていること(瞬間的な事態もふくみます)、「有界」とは事態の継続時間がはっきりしないことを意味します。

knowや所有のhaveなどの「状態動詞」や進行形はデフォでは非有界の述語です(フランス語やイタリア語の「半過去形」も非有界的と言えるでしょう)。動作動詞に関しては、「1回限りの瞬間的動作」をあらわす動詞は有界的です。いっぽうstudyとかwalkとかの継続動作動詞は原形では非有界的な感じですが、過去形だと有界的にとらえられるほうがふつうでしょう。おなじみかけでもI had lunchなどはI ate lunchとおなじですから有界的です。動詞の内在的アスペクト (Aktionsart) だけではどちらかきめられないことが多いです。時制や文法的アスペクト(完了/進行)、目的語や主語、副詞句なども考えないといけません。たとえばwriteは非有界的でも、write a letter というと有界的になるという話は「見える英文法」にも書きました。またhave a headacheは単独ではどちらかというと非有界的[状態的]でしょうが、つぎの文のように:

 

I arrived at the station. I suddenly had a headache.

「わたしは駅に着いた。突然頭が痛くなった」

 

と言うとhad a headacheは始点については有界的になり,時間(場面)はちょっとすすんだ感じがしますね。

 

 こういうめんどくさいことを考えるのがおもしろいと感じる変わった人は言語学のほうにすすんでもいいかもしれません。でも卒業してから仕事があるかどうかは知りませんよ(笑)。