X'masはほんとうに X(バツ)ですか?
アポストロフィーをめぐるおはなし
Merry Christmas !
(What's so merry about it?)
さあことしも愛と資本主義の祝祭 Christmasがやってきました。
ChristmasはXmasともかかれますね。
でもときどきX'masとなっているのも見かけます。このつづりってどうなんでしょう?
ずっとむかし、ぼくは英文科の大学院でクリスマスパーティの準備をするようにいわれました。それで会場となる研究室のドアにリースみたいなのを紙でつくってはりました。
これにはちょっとしたたくらみがありました。
わざとMerry Xmas! とかいたのです。
当時はいまとちがい、商店街のショウウィンドウなどのサインはほぼ99% X'masとアポストロフィつきだったのです。
英語圏では Merry Xmas! がただしいと知っていたぼくは、わざとアポストロフィなしにしてみんなの反応をうかがったのです。これをみて「まちがってるぞ!」なんていう学部生がでてきたら「ただしいのはXmasなんだよ。きみ英文科のくせにそんなことも知らないの?」といってやろうと思って。
めちゃ性格わるいね・・・
そしたらほどなく、「なんだこのXmasは!アポストロフィがぬけとるじゃないかっ!」という声がきこえてきました。
それはなんと某教授でした(汗)。
えーよりによって先生が??ぼくはびっくりしちゃいました。
先生がはいってきてぼくに「こういうこまかいことをちゃんとしないとだめだな」とかなんとかおっしゃいました。
そこでぼくはにんまりして研究社英和大辞典をひらいて見せました。
「先生、ごぞんじないですか? Xmasがただしいんですよ」(鬼のくびをとったように)
教授は辞書を見てひどくショックをうけたようすでした。「えーそうなの??」 しょぼーん。
ぼくらが学生のころは街でXmasを見るとけっこうおどろいたものです。
ちかごろはXmasとX'masの両方がいりみだれているようです。けっこうXmasが優勢な気がしますね。Xmasを普及させようとする人々の努力がみのってきたのでしょう。
ここまでむきにならなくてもいいのに・・・
でもほんとうにX'masはまちがいなんでしょうか?
一部の人がいうようにほんとうに日本独特なんでしょうか?
たしかにたくさんの英英辞書を例文検索してもXmasばかりでX'masはひとつもでてきません。
では英和辞書を見てみましょう。まずはルミナス。
ここにも<X'masと書くのは誤り> とあります。
じゃあつぎGenius。
<(3)X'masはふつうは避けられる。>
あれ?これはなんか微妙な説明ですね。「避けられる」ということはつまり英語圏でも使うやつはいるということですよね。
ランダムハウスは?
<(2)日本でよく使われるX'masは英語ではまれ>
「英語ではまれ」! つまり英語圏でもつかわれているということですか?
こうなると実際につかわれている例を見つけたくなります。
さがしてみました。
日本以外のサイトにもX'mas けっこうありますね。
でも「日本からほかのアジアの国々にひろまった」という説もあるようなので,やっぱりちゃんとしたnativeの英語でX'masをみつけたい。
そこでうちにある映画ドラマのデータベースをしらべてみました。すると・・・
ありました! ひとつだけだけど。
これでとりあえずX'mas和製英語説は否定されました。
でももっと権威ある例をみつけたい。
そこで大御所 OED です。
まあ,ダメもとでしらべてみましょう・・・
うーん,Xmasの例文はこんなにあるのに、やっぱりX'masはみつかりませんでした。残念。
でも! Xmasの項目にこんなのをみつけましたよ。
X'temmas !
ちょっとへんな形だけどアポストロフィつかってるじゃないですか!えらい古い例です。このへんがX'masのルーツだったりして。
ということで、結論は出ませんでしたが、すくなくともX'masは和製英語ではなかったようです。
ごめんなさい、先生・・・