まちがいさがし 8 Yesterdayの和訳には脱力したでー

まちがいさがし  8 

Yesterday の和訳には脱力したでー

 

 

Yesterday

 

知らない人がいるのかという名曲です。

 

あるとき、ネットでこのPaul McCartneyの名曲の歌詞の和訳を見ていたのですが… 

 

まあいろんな人がいろんな訳をしているのにいたくおどろきました。

 

つぎの訳に気になるところはないでしょうか?考えてください。

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うまい意訳だなと思うところもあるんですが、

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず

I’m not half the man I used to be の訳、

突然、僕は半人前の男じゃなくなったんだって違和感ありませんか?

 

この歌は、(真相はともかく)すなおによめば、かのじょをうしなったことをなげく歌でしょう。

この訳では、かのじょとわかれたら、なよなよしていた男がそのショックのおかげで突然人間的に成長したみたいにきこえます。

すぐたちなおって、つよくなったんでしょうか?

 

まあ人生にはそういうこともありうるでしょう。

 

でも、つよくなったにしては曲が暗いような気がします。

 

ほかのサイトも見てみましょう。

 

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★こんなのもあります。意訳していますが、うえの訳たちとおなじですね。

 

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★この部分を解説している人もいます。

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「不意に半人前ではいられなくなった」 

 「今回訳してみて、名曲『Yesterday』が、子どもが大人になるときの心情を歌ったものだってことに確信を得ました。」

 

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<「私は突然かつてそうであった半人前の人間ではなくなる=一人前の人間になっている」という意味で、現在と過去の対照を表した好例になっています。>

 

 

★いっぽう、ちょっとちがうのもあります。

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<「以前の僕は半人前ではなかった」>

 

ということは「むかしはいち人前だったけど、いまは半人前」ということですね。

 

つまり失恋でダメ男になったというわけです。

はじめの訳とまるっきり逆ですね。

 

つぎのやつもこれとおなじでしょう。

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<「前まで僕は中途半端じゃなかったけど」> 

 

これも失恋ダメ男系の解釈ですね。

 

 

★あなたはこれをどう訳すのがいいと思いますか?

つぎを読むまえに考えてくださいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは解説してみます。

 

まず、I’m not half the man I used to be の I used to be the man にかかる関係節です。構造がわかりやすいように関係代名詞をおぎなうとthe man that I used to beになります。

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to beのうしろに補語がないのでこのthatは補語のはたらきをする関係代名詞です。

 

補語は状態・性質をあらわすので、the man that I used to beは「ぼくがかつてあった状態の男」、もっと自然にいうと「かつてのぼく」という意味になります。

 

まえの名詞が人でもwhoはふつうつかいません。これはあとで説明します。

 

さて、うえの訳のように half the man が「半人前の男」という意味だったなら、half the man I used to be は「かつてのぼくのような半人前の男」という意味になるでしょう。

でもちょっと辞書の成句検索で not half をしらべてみてください。

 

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「not half  (1) a) 少しも…でない」とあります。

not half + Aは直訳すると「Aの半分もない」、つまりは「Aとはまったくちがう」という意味になるのです。

 

関係節(that) I used to beがかかる名詞句[先行詞]はhalf the man ではなく、the manだけでしょう。

 

というわけで、I’m not half + the man I used to be 「ぼくは『かつてのぼく』とはまったくちがう」→「ぼくは変わりはててしまった」という意味になるでしょう。

 

 

つぎのように "(not) half the man I used be"全体をひとつの慣用句として説明しているonline辞書もあります。

 

 

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Not half the man - Idioms by The Free Dictionary

 

(not) half the person/man/woman (one) used to be
Having a reduced, diminished, or weakened physique, disposition, 
conviction, prowess, or mental acuity, as after some action, event, or trauma. 
Sometimes used in the negative but to the same effect.

 

 
 「なんらかの行為,できごと,あるいはトラウマのあとなどに, 体格,性質,信念,能力,あるいは精神的するどさなどが,おとろえたり,減少したり,弱ったりしていること。否定文でつかわれることもあるが,そのときもおなじような意味である」(刀祢 訳)
 

Have you seen John lately? He lost so much weight 

that he's like half the man he used to be!

「最近ジョンにあった?かれは体重があまりにもへってかわりはてているよ」

 

Poor Mary, she isn't half the person she used to be  since that car accident.

「かわいそうなメアリ,あの交通事故のあとかわりはててしまっている」

 

 とてもわかりやすい説明ですね。おもしろいのは「否定してもおなじような意味」ということです。

つまり,「かつてのわたしの半分になってしまった」といっても,「かつてのわたしの半分ですらない」といっても,わたしはかわりはててしまったという意味にかわりないわけですね(否定のほうがちょっと意味がつよい気はしますが)。

 

 

 

 

 

さて,the man (that) I used to beのような「補語格」の関係代名詞のつかいかたは主格・目的格・所有格にくらべるとあまりちゃんと意識していない人が多いかもしれません。いくつか例を見ておきましょう。

 

★He made me what I am today.

「かれがわたしをいまある状態にした」

=「かれのおかげでいまのわたしがある」「かれのせいでいまのようなわたしになってしまった」

 

これは受験生でもわりとよく知っている what の補語格。

 

 

 

 

★Michael is practically a perfect child, he is pretty much everything I want him to be.

「Michaelはほとんど完ぺきな子どもで,ほとんどわたしがのぞむとおりの子です」

 

これはちょっと複雑な構造です。

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 ★Be the good girl you always have to be

 

アナと雪の女王」の主題歌Let it Goからです。

直訳すると「あなたがいつもあらねばならぬいい子でいなさい」となります。日本語で表現できるはんいをこえている気がします。「いつものようにいい子でいるのよ」か「いつもいい子でいるのよ」とごまかすしかないでしょうか。

 

 

 

★People want to believe Jesus was physically more than just a normal man, which he was not.

「みんなイエスが肉体的にふつうの人よりすぐれていたと信じたがるが,かれはそうではなかった」

 

このように非限定用法でもつかわれます。そのばあい,まえの名詞が人をさす語でもたいていwhichをつかい、whoはあまりつかいません。この補語はすでにのべたように「a normal manの性質」をさしているのであり、性質はヒトそのものではなくモノだからでしょうね。

 

なお、限定用法のばあい、補語格の関係代名詞は省略できます(ほとんど省略されます)。

「関係代名詞を省略できるのは目的格のときってならったのに?」と思った人は、Wikipedia関係詞の項目の「関係詞の省略」に解説しましたので、よんでくださいね。

 

 

 

★ところでみなさん、これはなんですか?

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こたえは

 

 

 

   half an apricot in yogurt

 

 

でした。

 

なんじ、みるものすべてをうたがうべし。

かくいうわれをもまた(笑)。