文法ミニレクチャー that節に原形をとる動詞 のおぼえかた
「that節に原形をとる動詞」って習いましたよね?たとえば,
We suggested that he return home.
(私たちは彼が家に帰ることを提案した)
suggestedは過去形なのにthat節のreturn は原形です。
文法の参考書には,このパターンをとる動詞が20個ぐらいずらりとならんでいたりして,これをおぼえないといけないの?ってうんざりするでしょう? でも,そんなにたくさんの動詞のリストをおぼえなくても,この種の動詞に共通する意味がわかっていればだいじょうぶです。 よく「要求・提案・依頼・命令…の動詞」とかずらずら書いてありますが,
つまりはすべて「人になにかをやらせたい」という意味をふくむ動詞,っていうことじゃないですか?
「人になにかやらせたい」ときにはどんな文を使いますか?
そう,命令文を使いますね。たとえば:
“Be quiet!”
こんなふうに命令文には原形の動詞を使いますね。
こんな英語もあります。
God Save the Queen
イギリス国歌のタイトルですね(もう God Save the Kingにかわってしまいましたけど)。「神が女王を救う[守る]ように」という意味です。ちょっと見るとふつうの文のようですが,主語Godが3人称単数なのにSaveに-sがありません。つまり原形なのです。「祈願文」と言われる古いタイプの文です。(これすごくいい曲なので,きいたことがない人はyoutubeで歌詞つきのやつをきいてみてください。
祈願文だらけの歌詞はすこし好戦的なヤバイ内容ですが,国歌ってこういうのが多いです)
要求・提案・依頼・命令…の動詞のあとのthat節に原形を使うのもこういうのとおなじような感覚なんです。つぎの二つの文を見るとその感じがわかってもらえると思います。
The teacher said to the students, "Be quiet!"
(教師は学生たちに「静かにするように!」と言った)
The teacher demanded that the students be quiet.
(教師は学生たちが静かにするように求めた)
どちらのbeも「~するように」と訳してみました。実際,人になにか命令するとき「~するように!」って言う人がいるでしょう?こう訳すと日本語も同じ感覚だなと感じませんか?
さらに言えば,
The teacher told the students to be quiet.
(教師は学生たちに静かにするように言った)
この文のto beだって to + 原形 ですね。
つまり,動詞の原形 というのは,現在形や過去形とちがって,まだ現実ではないことを表す形だ,と考えてもいいかもしれませんね。人にやらせたいことは,まだやってないことですからね。
「理屈はわかった。でもやっぱり,that節に原形 を使う動詞を具体的におぼえないと不安だ」という人がいるかも。そういう人はつぎの言葉をおぼえてください。
D R I P S
これ,なんだと思いますか?
入試問題を分析したところ,that節に原形を使う問題に出題される動詞のTOP 6は次の動詞たちだ ということがわかりました。
1位 suggest 約38%
2位 demand 約15%
3位 insist 約12%
4位 propose 約10%
4位 recommend 約10%
6位 request 約8%
そしてこの6つで約90%の問題をカバーできるわけです。 じつは D R I P S というは,この最頻出の6つの動詞の頭文字を ならべたものです。
上のわくにはRのところに require もプラスしています。どうせならRで3つおぼえてしまいましょう。
ちなみにあの有名なMEGAFEPSとはちがって,DRIPSには「水滴」というちゃんとした意味があります。ほら,ドリップ式コーヒーってあるでしょ?
これは,もともとはぼくが授業のとき,動詞をすらすら黒板に書けるように自分用に考えたものなんですけど,これでおぼえられそうな人は使ってみてくださいね。
「D R I P S はthat 原形」
とおぼえましょう。
ではまた! See you around!
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P.S. that節にあらわれる原形 のかたちを「仮定法現在形」とよんでいる本がおおいです。たしかに,英語の歴史からいえば,本当の原形(不定詞)と,「仮定法現在形」は区別されるべきものですが,そういうことは一般のnative speakerでもしらないことなので,うえの説明ではわざと「みかけが原形なら全部原形でいいだろ」という視点でワイルドな説明をしました。わかってやってますので,この点に関するつっこみは必要ありません。
また,suggestなどのあとのthat節で動詞が原形 になる現象を,「そのまえにめにみえない助動詞があるからだ」という説もあります。それが「透明なshould」かどうかはわかりませんが,そうかんがえるとthat節が否定文になるとき,ふつう原形 のまえにnotがおかれることもわかりやすいです。
フランス語に興味がある人はつぎの文をみてください。
a) Le professeur t’a dit: ---Sois calme!
(教師はきみにいった「しずかにするように」)
b) Le professeur a demandé que tu sois calme.
(教師はきみがしずかにするようにもとめた)
a) のSois(スワ)はêtre(英語のbeに相当)の命令形,b) のque節(that節に相当)のなかのsoisはおなじくêtreの接続法(subjonctif)現在形というかたちです。後者は英語でいうと仮定法現在形みたいなはたらきをするかたちですが,これらの文に関してはみかけがおなじですね。これは偶然なのでしょうか。それとも英語の原形 のつかいかたのように,共通の感覚があるのでしょうか?
スペイン語もみてみましょう。
a) Lea más libros.
(もっとたくさん本をよむように)
b) Mi mamá me dice que lea más libros.
(おかあさんはわたしにもっとたくさん本をよむようにいう)
a) のLeaはleer「よむ」の接続法現在形が命令としてつかわれたもの。b) のque節(that節に相当)の lea はおなじくleerの接続法現在形です。スペイン語ではていねいな命令には接続法をつかいます。
いろんな言語で動詞のかたちをくらべてみるとおもしろいです。